森を抜けてしばらく走ると、小さな街に着いた。
「今日はここで一泊するぞ。」
「え?」
大阪はすぐって言ったのに?
「そんな顔するな。
左近様から指示が出てるんだから仕方ないだろ。」
「左近さんから?」
「姫様!!左近さんではありません!左近様です。さ・こ・ん・さ・ま」
紅葉さんとの会話にわって入ってきたのは桔梗さんで、
「紫衣の左近様の呼び方は左近様も何も仰ってないんだからいいんだよ!真面目桔梗はうるさいんだよ!」
「されど!」
「されどもクソもねぇ!それに、お前こそわかってねぇんだよ!
紫衣は殿の奥方様だぞ?その紫衣に向かっていちいち細かい事でいちゃもんつけるんじゃねぇよ!」
ちなみに俺も紫衣が来るまでは奥方様だったんだよって最後は茶化したように話す紅葉さんだけど、桔梗さんは紅葉さんの言葉にあんぐりと大きな口を開けたまま固まってしまった。
「行くぞ。」
そんな桔梗さんを一瞥してから私に視線を戻すと紅葉さんは私の手を取って歩き出す。
「姫様ッッ!いえッッ!!
奥方様――…!!」
背中に掛かる桔梗さんの悲痛な叫びに足を止め、振り向こうとする私の手をぐいぐい引っ張る紅葉さんに、
「待って!桔梗さんが…。」
止まってくれるように頼もうとして一喝された。
「放っておけ!少しはいい薬になるだろう。」
そのまま私は引きずられるようにして、目の前の大きな屋敷に足を進めた。
なんだか少し気の毒に思える桔梗さん。
それに奥方様って言われても私自身がピンときてないのに…


