緊張で眠れない夜を過ごした翌朝、
「紫衣、いつまで待たせる気?」
襖をガラリと開けながら紅葉さんが部屋に飛び込んできた。
「なんだ、準備出来てるんじゃないか。」
私の姿を見て安堵の声を漏らす。
身支度は整えてある。
そりゃ私だって三成にはすぐにでも逢いたいって気持ちは変わらない。
だけど、馬が怖いんだもん。
「紫衣ってさ、姫様の着物より今のその着物の方が似合ってるね。」
ニヤリと笑いながら紅葉さんは言葉を落とした。
今の私の格好は着物ではなく足が自由に動く袴のような物を着ている。
馬に乗るのだから当然普段着ている着物とは違う。
現代風に言えばズボンのように足が開きやすい着物だ。
「私は何でも似合うのよ。」
憎たらしい紅葉さんの言葉に言い返すと彼は優しく微笑んで言ったんだ。
「馬に乗るのも旅をするのも俺がついてるんだから怖がらなくてもいいよ。」
なんだか調子狂っちゃう。
「お世話になります。」
あんまり紅葉さんの笑顔が優しいから私も素直に言葉を返した。
「いってらっしゃいませ。」
大きな馬に乗せられて私は紅葉さんと一緒に見送られた。
三成のいる大阪まではそれ程遠い距離ではない。
でも電車や車ではなく馬の旅。
どれくらいかかるのか全く見当もつかないんだ。


