紫衣――…!
頭の中に直接響く悲痛な佐和さんの声。
ズキズキと痛む頭を抱えながら重い瞼を持ち上げた。
「紫衣?」
私を覗き込む佐和さんの瞳はゆらゆらと揺れていて、ぽとりと頬に雫が落ちた。
まだ霞む視界には寂しそうで、それでいて少し苛立ちを感じる佐和さんの顔が映る。
「紫衣、三成が…
三成を止めてくれ!」
片腕で私を支え、もう片方は私の後ろを指さしている。
佐和さんの指す方向に顔を向け視界に捕らえることが出来たのは薄く消えゆくお兄ちゃんの姿だった。
「嫌…。」
何があったのかなんてわからない。
だけど佐和さんの涙。
消えようとしているお兄ちゃん。
それだけで私は今、とても恐ろしい事が起きようとしていることが想像できた。
「行かないで!」
「嫌よ…。」
「イヤーーーッッ!」
おぼつかない足取りでどんどん薄くなっていくお兄ちゃんに駆け寄った。
「紫衣…。」
「どうしちゃったの?お兄ちゃん。」
「三成!紫衣の笑顔を守るためにお前も必要なんだよ!
わかれよいい加減!
消えるなんて勝手なこと言ってんじゃねぇ!
言ってんじゃねぇよ…」
佐和さんの言葉に心臓が早鐘のように鳴った。
消える?
「嫌よ…イヤーー!
行かないで!私をおいていかないで!」
あの空の上。
不思議な世界で私は独りになった。
眠っている私をおいて姿を消したお兄ちゃん。
走馬燈のように蘇る記憶に私の体はガクガクと震えだした。
「いけませんね、殿。」
突然背後から掛けられた声。
「左近か。」
お兄ちゃんはそれが誰かわかるのかポツリとその人の名を呼んだ。
「なんでも一人で抱え込む癖は健在のようですね。」
しっとりとした女性の声も聞こえてくる。
「朱里まで…いったいどうしたというのだ。」
困惑するお兄ちゃん。
「殿を叱りに来たんですよ。」


