玄関のドアの音が聞こえて、佐和さんの声も聞こえた。


「ただいま。」


「おかえりなさい。」


下着に戸惑いはあったけど、着替えが終わっていた私は元々着ていた洋服と下着を紙袋に素早く詰め込んで脱衣場の扉を開いた。


「髪、乾かさないと風邪ひくだろ?」


バスタオルを肩に掛けて濡れた髪をそのまま垂らしている私に、買い物袋の中身をテーブルに出していた佐和さんは、その手を止めて言ったんだ。

「ドライヤーも出しておいただろ?」


わかりやすく洗面台の棚に置かれているドライヤー。


だけど、佐和さんの顔が見たかったからドライヤーなんて後でいいって思ったんだ。


それに佐和さんだってシャワー浴びたいでしょ?

「佐和さんもシャワー浴びてきて下さい。」


「紫衣、俺の話聞いてた?」


コクコクと頷くと佐和さんは洗面台からドライヤーを持ってソファーに腰掛けた。


「おいで。」


ソファーから首だけで振り返って私を呼びながら自分の座っているすぐ横をトントンと叩いている。


私は吸い寄せられるように佐和さんの隣に座った。


「そこじゃない。」


なのに何故?


一瞬ふわりと浮いた感覚がして、気がつけば私は佐和さんの足の間に座らされている。


「乾かすんだから隣だとやりづらいだろ?」


「じ…自分でやりますから…佐和さんシャワーを…」


最後まで言い終わる前にドライヤーの大きな音が響いて髪を梳く佐和さんの指先。


「紫衣の髪は細くて柔らかいな。」


なんて、まるで私の話を聞いてない佐和さん。