「調度良かった。」
池の前で彼が落とした言葉。
不思議そうに彼を見ると、彼は空を指差していったんだ。
「今日って新月だろ?」
意味がわからなくてやっぱり首を傾げる私にクスリと笑った石野さんが言ったんだ。
「池に紫衣の逢いたい人がいる。」
私の逢いたい人?
「石野さん...。」
どうしてこんなにドキドキするの?
逢いたい人?
そんなはずない。
「見てみ?」
動けない私の肩を抱き寄せて池に近付く石野さん。
私は彼に促されるまま足を動かした。
「ここにいる。」
指差したのは池の水面。
細い新月が映りゆらゆらと揺れている水面だった。
訳がわからないままに私は膝をついて水面を覗き込んだ。
「嘘.....。」
溢れてくるのは涙。
もっとちゃんと見たいのに霞んでしまってよく見えない。
「逢えただろ?」
私の横に同じ体制で池を見ていた石野さんに体を支えられ、その胸に顔を埋めた。
「どうして?」
ずっと気になっていた。
紫衣が幸せなのか...
お兄ちゃんが幸せなのか...
瞳に映るのはお兄ちゃんと紫衣。
紫衣を優しい瞳で見つめるお兄ちゃん。
頬を染めてその視線を絡ませる紫衣。
池に映し出されていたのは幸せそうに微笑む二人の姿だった。


