膳運びが苦痛になった一番の原因は正澄様。
優しい正澄様を嫌ってるわけじゃない。
むしろ好きな部類の人だと思う。
武士と呼ばれる人はとても怖い人が多い。
ゴツい肩幅に浅黒い肌、野犬のようなギラギラの瞳。
姿を見るだけで背中に汗がつたうんだ。
時代劇に出てくる荒くれ武士を目の前にして感動を通り越して私は膝の力が抜けそうになった。
ここに来て始めて私がこの世界に迷い込んだとき最初に見つけてくれたのが左近さんで良かったと心の底から思った。
正澄様はとても柔らかいお人柄で優しく微笑んでくれる荒くれ武士とは違うタイプのお方。
だけど…
「正澄様の膳ならゆきさんが運びますよね?
ごめんなさい。
私は違う膳を…。」
手にしていた膳と違う膳を取り替えようと扉に背を向け体を反転させると目の前には仁王立ちのゆきさん。
「なに遠慮してんだい。私の夫だからって変な気を回すんじゃないよ!
本当に紫衣は可愛いねぇ。」
照れて頬を染めるゆきさんはとっても可愛い。
可愛いと口に出せないのはゆきさんが私よりも年上だから。
正澄様に対して夫婦になっても変わらず全身から‘大好き’オーラを出しているゆきさんが私はとっても好きだ。
だからこそ正澄様のお部屋には行きたくない。
行けない…。


