「鏡を....。」
着物の着付けが終わって座る私の背後から渡された鏡。
怖い...。
ギュッと目を瞑って鏡を顔の前に持ったまま開くことが出来なかった。
「紫衣、とっても可愛いですよ。」
掛けられた朱里さんの優しい声に私はソロリと瞼を上げた。
鏡に映るのは本来の18歳の私。
左近さんに出逢った頃の私だった。
「朱里さん。」
言葉が続かない私にニッコリ微笑むと朱里さんは左近さんに声を掛けて部屋に入るように襖を開けた。
部屋に入ってきた左近さんは私の姿を見て一瞬行動を止めたけど何も言わなかった。
いつも通り朝の挨拶をして一緒に朝食をとる。
姿が変わっても変わらない左近さん。
「あの...左近さんの養女って私じゃダメですよね?」
恐る恐る尋ねる私に左近さんは優しい微笑を浮かべながら応えてくれた。
「何も困ることはない。殿は今の紫衣を気に入ってくださるだろう。
城の者にも幸いなことにお前を見たものはいない。
左近の養女が幼い娘だとみんな知らないのだよ。
だから何も心配することはないんだ。
それよりも楽しみだな。」
ニヤリと口の端を片方だけ持ち上げて笑う左近さん。
こんな時の左近さんはとっても意地悪なことを考えている。
「何か楽しみなのですか?」
不安になって尋ねるとあっさりとした口調で左近さんは言った。
「幼い紫衣がこんなにいい娘に急成長したのを見たときの殿の顔がですよ。」


