呆然とする私をそのままに車は走り出した。
忘れ物?
忘れ物って言ったよね?
「あのー...さっきの口付けですか?」
私の言葉に車は急停止した。
驚いたような表情の石野さん。
口付けじゃないの?
この時代忘れ物は口付けなの?
わからない.....。
困惑する私の顔を見て石野さんはクスクスと笑い出した。
キョトンと首を傾げる私を見て噴出すように更に笑い出す石野さん。
さすがに何かおかしいと思った私はなんだか無性に恥ずかしくなって頬を膨らませて言ったんだ。
「何がそんなにおかしいんですか?」
失礼しちゃう!!
どうしてそんなに笑わなければいけないの?
そんな私の声に石野さんの笑いは更にエスカレートして彼はヒーヒーと声を上げて笑い転げていた。
怒るよりも驚いたんだ。
冷静で冷たい印象の石野さんのこんな姿を始めてみてビックリしたんだ。
諦めたように溜息を吐き出す私の頬にかかった髪を掬い上げるように指を通して石野さんは私の顔を覗き込むようにして顔を近づけた。
そして私の顎に指を添えると顔を持ち上げ彼のほうを向かせる。
目が合うと彼の綺麗な瞳は涙で潤んでいた。
涙が出るほど笑ったんだ!!
目じりをその長くて細い指で拭って石野さんはもう一度唇を落としたんだ。
唇が触れたのは額。
そして頬。
最後に唇に落とされた。
「口付けって使い慣れない言葉だったから..笑ったりしてごめん。
だけどとっても可愛い。紫衣、すごく可愛いよ。」


