「お待ち下さい殿!!
それでは…」


「もうよいのだ左近。」


「ですが殿!!」


「よいのだ左近。
俺は俺の運命を天に委ねることにした。」


左近の言葉を遮り俺の考えを告げた。


これでいい。


目を覚ました紫衣がこの橋を渡りたくば渡ればいい。


そうすることで俺の望みが叶わぬものとなろうとも俺は後悔はしない。


「俺の為に誰も犠牲にしたくないのだ。
志のために手段を選ばずという気持ちが持てなくなったのだ。
だから俺はもう天に全てを委ねると決めたのだ。」


眠る紫衣の姿を目に焼きつけるように見つめた。

「殿は、娘を愛おしいと思ったのですね。」


「そうだ。」


愛おしい。


人を愛しいと思う心は人を優しくする。


それを紫衣は教えてくれた。


「冷徹な鬼の三成と呼ばれたお方がねぇ。」



この男、俺をからかっているのか?


「行くぞ。」


俺は左近に背を向けて歩き出した。


橋は目の前。


俺の行く道は決まったのだ。