依資明太郎(いし めいたろう)と呼ばれる青年は語り始めた。

土生英太(はぶ えいた)は恨んでいたという。


彼は亡き父親とその母親よりも生を恨んでいた。


彼の父と母は彼が生まれるとすぐに自殺したのだった。


彼は幼い頃の事故により、片足をなくしている。


彼は足が無いことに対して不満を抱いたことはなかった。死への憧れもなかったが、生きることへの恨みを抱えていることだけは確かだった。


道徳の時間だった。教師が黒板にその文字を書くと、“命はなんだろう?”と読み上げた。まわりの生徒達は、日常的に使われる単語を組み合わせて、できるだけ矛盾のないように喋らせ、発言させられなければ、評価かが下がってしまう教師の思惑通りの答えを、あれよあれよと、我先にと、つぶやいていた。



すると一人の生徒が立ち上がり叫んだ。

「命も何もない…恨みだけしかない!生まれてからずっとだ!!」