「いや、お前の顔を見たら、まず謝らないといけないと思ってな。」
「だから、何なんですか?」
部長に謝られる心当たりが、僕にはなかった。
「加藤の事だよ。」
「加藤の事と言うと?」
「お前に加藤の様子を確認させたり、加藤の彼女の所に行かせたり、お前には色々手伝ってもらったのにな。」
完全に忘れていた。と言うか、遠い昔の事のようだ。
「それが、どうかしたんですか?」
「結局・・・加藤な・・・辞めさせられる事になったんだ・・・。」
「えっ。」
驚いた。ただ、それは加藤が辞めさせられる事にではない。自分の気持ちの冷静さにだ。
「加藤の病気って言うのか?未だに、よくわからないものらしいんだ。精神的なものって事は言えるみたいなんだが・・・。となると、いつ戻って来れるかわからない。さすがにそれだとな・・・。」
「だから、辞めさせると?」
「まぁ、そう言う事だ。」
「仕方ありませんね。」
部長は驚いた。
「どうした?ずいぶんと冷静じゃないか。お前達、仲良かったんだろ?」
「えぇ、まぁ。」
いくら仲がいいと言っても、学生時代の濃い付き合いではない。表面上の付き合いだ。
それに僕の中は、彼女でいっぱいだ。加藤が入る隙間はなくなっていた。
「僕も・・・、あの加藤の状況を・・・目の当たりにしてますからね。医者でなくても、あれを見せつけられたら、どうにも出来ない事くらいわかりますよ。」
部長は、加藤の所に行っていない。何かに理由をつけて、面会に行くのをはぐらかしてきた。だから、僕の言った事を、完全に理解する事は出来なかった。
「そんなにひどいのか・・・。」
「えぇ・・・。」
意気消沈した。
しばらくの沈黙の後、僕は黙って部屋を出た。