コーヒーに気を取られ、恵は自分が何を話そうとしたのか、忘れてしまっていた。
「それよりさ、私にだけ言うとか言ってたよね、何を?教えてよ。」
絵里香は、忘れていなかった。気になってしょうがない。
「あ、そうだったね。実は・・・私、大河内先輩の事が・・・好きなんだよね・・・。」
「??」
話が見えてこない。さっきまで、恵は加藤の事を話していた。しかし、恵の口から出てきた名前は、大河内だ。どういう事なのか、絵里香には想像する事も出来なかった。
「あれ・・・恵って、加藤さんの事が好きなんじゃないの?」
絵里香は確認した。
「えっ、なんで?なんで、あんな小太りなおっさんみたいなの好きになるのよ。どうして、そんな話になるの?」
「だって、恵、さっきまで加藤さんの話してたじゃない。普通、そう思うよね?」
「違うの。加藤さんの事を話したのは理由があるの。」
「理由?」
安心した。また、いつものように突拍子もない話をされていると思っていた。もしそうだったら、これ以上付き合っても意味はない。
「大河内先輩も・・・、おかしいの・・・。」
「そうかな?私には普通に思えるけど・・・。」
「私も昨日までは、そう思ってた。でも、今朝、駅で見かけた大河内先輩は、まるで加藤さんみたいだった・・・。」
「みたいだったって、恵、あんた一体何を見たのよ?」
絵里香は、椅子を恵の側に移動させた。オフィスがカーペット敷きのせいで、椅子のローラーの滑りが悪い。両足力を込め、必死に移動させた。
「大河内先輩もね、独り言を言っているの。駅で。」
「駅で?一体どんな?」