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母艦「とばり」は、唸りを上げてその船体(からだ)を水面に滑らせた。
全長数十メートルにも及ぶそれの、目を見張る機動力。波を切りはじめる船尾のスクリューは、だんだんとその速度を上げる。
完全に静止した艦の周りで起こる渦が居場所を奪った水の飛沫が甲板を叩いた。
普段から手慣れているのは航空隊の海上拠点としての戦闘…つまり「衛」「柔」の戦闘がセオリーであるゆえに、隊員達も、今まで知る由もなかった自分たちの艦(ふね)のキャパシティに息をのんだ。
「はやいっ…!」
誰か隊員が呟いた通り、「はやい」。
大型戦艦──しかも既に拠点として安定し、機能しはじめている巨大なカラダ。
そう簡単には動かないはずだった。ましてや、膨大な量の入力を経ることが要ってくる「解離」はなおさら。
水の流れを読み、海風の層を見極め、紺野利樹は確実に最短速度で《とばり》に伝わるよう指示を出していく。


