「僕が死ねば、襲撃は終わると思ってるんですか?」





打って変わって落ち着いた笑いを見せる春樹の言葉に、紺野は眉をしかめた。

「君の望みは、兄さんを殺すこと?」

それならこんな組織に組しなくても、と言い含める紺野を一瞥して春樹は続ける。



「あの男を殺すことは僕個人の悲願です。
だけど、たとえそれを抜きにしても《壊像》は特務機動隊を潰しにかかるし、いずれこの国を沈める―――それに対して迷いはない」

言葉に淀みは無く、紺野は春樹の中で構築される理想の脆さと陳腐さを見た気がした。






「…そーゆーの、つまんないと俺は思うけどね」






紺野は喧嘩をした幼児を慰めるように、ニコニコと笑ってそう言い放つ。
怪訝そうに顔を歪ませたのは、今度は春樹の方だった。




「俺は愛されたいし、讃えられたいし、強くなりたいからね……だけど、これは全部大切な人達が居てこその話。


君は、助けを待ってすらいない顔も知らない奴に、君の生命や先の未来を捧げるのかい?


誰にも誉められないし、愛されることもない―――そんなの、とんだお笑い草だ」

紺野を睨み付け、春樹は小さなため息を落として応えた。

「そんなものはもうとっくに捨ててます。


だけど、僕が笑われることはない―――生命を捧げる若き憂国の士……合法的な人殺し集団を駆逐する英雄だ」






「―――……?」

ぱり、と何か金属片が剥がれ落ちるような音に紺野はさりげなく聞き耳を立てた。
そのまま、周りの様子を探ってゆく……絶対に悟られないように。