「見えてない?………笑わせないで下さい」
肩を震わせながら、春樹は爛々と目を光らせる。
紺野が再び腰を落とし、駆け出した。
「俺は、哀れんでるんだよ?」
紺野がふうっと息を落とし、前進するスピードを緩める。
その瞬間を狙い、春樹は一撃を見舞おうと身体をひねった。
「黙れっ…!」
怒りと重力にまかせて蹴りを叩き込もうとそのまま紺野の胴体を狙う。
「そういうトコロも、全部」
春樹の視界の中で、先程まで確実に捉えていたはずの紺野が、言葉だけを残して消えた。
例えば、野球のバッターは一度ハイスピードストレートを見た後、スローボールを打てる確率は格段に下がるという。
スピードを落とした「ように春樹に見せた」紺野が、次に自身最速で動く。
そうなった時、春樹が紺野を捉えることが難しいのは必然だった。
「見えてないってこと」


