散弾銃プレアデス






春樹の僅かな動揺を見透かした紺野が素早く前進する。
その無駄の無い動きは、他の人間に、色味の無い甲板を舞踏場さながらに見せた。

「………ッ!」



悔しげに舌打ちを響かせた春樹は、既に最初の勢いを失っていた。余裕の無い焦りは更に判断を鈍らせる。




「哀しいことや、耳を覆いたいようなことに直面すると…人は周りが見えなくなる」




すぐ後ろで囁かれた言葉に春樹が振り返れば、優雅に微笑みながら威圧を感じさせるような、圧倒的な柔らかさがそこに構えていた。

「見えてないね」



“見えてない”のが紺野の姿自体であるのか、自分自身のことであるのか、忌むべき男のことであるのか……春樹には、もうどうでも良かった。




「今だって、原伸吾は君のことを解ろうとしてるのに――原…玲太郎(れいたろう)くん」





その名前で呼ばれたのは一体いつぶりだろう?


「……吐き気がする!!」