少し前ならまだ肌寒かった春の夜風も、既に心地よい温もりと冷気をたたえて頬を撫でていく。 西側の山には、わずかに橙色が残っていたが、きっとすぐ優しい藍色に閉ざされるだろう。 広がる生まれたての闇夜には、金色の宝石がひとつ。 「金星。……知ってるか?」 安原の言葉に、すばるはふるふると首を振った。 “金星”は一際強く瞬いている。