「じゃあ、頼む」 笑顔を浮べた年配の女性にそう言うと彼は部屋を出ようとし、慌てて引き返してくる。 「ごめん、忘れてた」 彼は部屋の奥の椅子に座った黒髪の娘の側に行くとその細い手を取り、懐から小さな指輪を取り出した。 「母上の形見なんだ。サイズ、合わせておいたから」 言いながら彼女の薬指にそれを嵌め込むと、 「行って来る」 頬に唇をつけながら言い、照れたような様子で出て行った。 あとに残された娘は今言われたことが聞こえなかったかのように、しげしげと指輪を見つめていた。 ◇◆◇◆◇