命日。彼は急いで、移されたばかりの部屋に戻った。

 父王は正式な王族ではないから別に礼装でなくてもいいというのだが、やはりきちんとしたかった。

 自分も黒い礼装で彼女を迎えに行く。ディーネがきちんと黒い礼装を着せてくれていた。

「ごめん、時間がない。急ごう」

 彼女の頭にあったのは略式のティアラ。

 彼女の唯一の、公に与えられた正装の小道具だ。

 政治には出さないと決めていてもこういう場は気を遣う。

 何故か父王は、母の墓から予定よりかなり遅れて戻った二人を見るなり、婚礼の儀は彼の二十二歳の誕生日に延期すると言った。

 今日は毎年恒例の祭典だけが残っている。

 婚約の儀を除けばこれが初めての公の場となった。

「大丈夫? リーリア」

 ペンダントが、赤い光を放った。最初に刻まれた名と同じ名を贈り名された、花嫁となる娘の胸の中で。


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