まぁ、ろくでもない連中に捕まったということは理解できた。

 人売りか奴隷商人だろう。馬車に詰め込まれてどこかへ運ばれた挙句、下着姿で壁に繋がれている。

 客らしい人間が嘗め回すように見ている中、入り口にまた人の影。

 目が合うと彼は無邪気な笑顔を見せた。

 戸惑う間にも彼は商人の一人と手短に話をする。

 彼女は見る間に壁から鎖を外され、隣の部屋に連れ込まれた。腕の手枷から伸びた鎖は汚れたベッドの端に繋ぎ直される。

 商人が下非た笑みを浮べて去った直後、彼が入ってきた。

 彼は側にあったシーツを彼女の身体に掛けると鍵で手枷を外す。

 あの笑顔を浮べていた。透明な、無邪気な笑顔。

 何かを言ったが何を言ったのかは分からなかった。無理もない。何しろ言葉が通じないのだ。

 黙っているとノックの音がして扉が少し開いた。その隙間から何かを受け取ると彼女の側にそれを置く。

 ワンピースだった。

 また何か言うと彼は壁の方を向いた。心なしか顔が赤い。

 それを着て側に行くと彼はほっとしたように彼女を見て、そっと彼女に顔を近づけてきた。

 たっぷり時間を置いてから――迷っていたのかもしれないが――しっかりと彼女を抱き締め、戸惑いがちに唇を重ねた。

 その後、赤面しながら何か言うと彼女の手を引いてそこを出た。





 春のやわらかな陽射しの中、大きな紋章の描かれた大型船へと向かっていた。


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