そのまま沈黙が続いた。
あたしはベッドの上に体操座りしながら、壁に体を預けていた。目をつぶると涙が零れ落ちて、涙が枯れていないことに驚いていた。

悟の方をちら、と伺うと何かを考えるように眉間にしわを寄せている。ひどく罪悪感に陥った。悟は何にも悪くないのに。

しばらくそうしていると、悟が顔を上げて、視線が合った。何かを語ろうと口をあける悟からあたしは目を離せなくなった。


「……あのさ、俺がこんなことを言うのもなんだけど」

「…うん」

「もし、もし仮にお前をかばって一樹が死んだら、お前はどう思うよ」

「……」

「それこそ、死にたくなるんじゃねぇの?」


あたしは悟から視線を逸らした。
もしもあの助けられた女の子があたしだったら?
その罪悪感に、確かにあたしは自殺してしまうかもしれない。だけどかすかに思うのは、一樹に守られた命をそんなに簡単に投げ出すわけがない。大切に生きていくかもしれない。


あたしの瞳は揺れていた。


もう枯れることはないと知った涙が一筋流れた。




「…あたし、死にたい」

「、え?」

「死にたい、けど、死ねない」


一樹の最後に残した行動があたしを揺らしていた。
もしも。もしも一樹があたしを助けて死んだなら、あたしは生きていられると思う。その命はきっと、一樹の命でもあるから。
だけど今のあたしは、妻じゃないけれどただの未亡人。
この命はあたしのものでしかない。あなたの気持ちがわからない。



一樹、いつき、いつき。



あたしは、どうすればいいの。


ただあなたと話したい、抱きしめてほしい、好きだよって言ってほしい。






……あなたに会いたい。






あたしはまたしくしくと泣いた。
泣くしかなかった。膝に顔をうずめて丸くなって泣いた。