結衣は焦っていた。


聡はいっこうに彼女と別れようとしない。


どんなに「好きだ」と言われても--


何度抱かれても--


「敦子の気持ちの整理がつくまで、もう少し待ってくれ」


聡の口からは壊れたレコードのように同じ言葉が繰り返されるばかりだ。


このまま、彼が彼女と別れないまま……『都合のいい女』になってしまうのなんて嫌。


聡の腕の中で何度も「辛い」と泣いてみた。


「敦子は……結衣みたいに素直に泣けないんだよ」


身勝手な男のセリフ。


何もわかっていない、男のセリフ。


当の彼女本人である敦子は、元気そのものだ。


わたしのいる総務課に毎日のように来ては、京香さんと楽しそうに話す。


「今日、聡がウチにくるの。聡の好きなイカと里芋の煮物を作るわ」


わたしに聞こえるように、大きな声で。