『ラビリンス』

上を見ても下を見ても
終わりの見えない螺旋階段

錠がかかっている部屋
錠がかかっていない部屋

扉が開いたままの部屋
透けて見える部屋

誰かに見られているような重圧感
初めての場所なのに覚えた安堵感

ここはどこだろう

いつのまにか
僕はここにいた
離れたいと思っていた願いが届いたのだろうか

部屋を見つけた
何重にもかけられた錠が朽廃して扉が少し開いている
そこから洩れる茜色の光が
まるで僕を誘うように
ゆらゆらと動いていた

ここはどこだろう

中に入ろうとして
扉に手をかけた

その瞬間(とき)
僕と扉の間に何かが現れた

死神だ
全身真っ黒 くろクロ黒
黒く大きな鎌は刃先だけが
目に見える

僕は見た 死神を
死神の顔を

ここはどこだろう

そして
死神はそっと扉を開けた
そこには優しい空間が広がっている
あたたかな家庭
優しい友達

死神はすぐに扉を閉じた

ここはどこだろう

白い天井 白いベッド
断続的な機械音

死神の顔は僕だった

死神は神様だ
死魂を運ぶ神様だ

死神は僕を現世に戻した
それはまだ死ぬときじゃなかったからか

ここはどこだろう

いつでも
鎌を手にした黒い僕は
僕の心臓を狙っている

あそこはきっと
心の中のラビリンス