しかしまわりは、私のそんな意志などお構いなしに、私を政治家に仕立て上げてしまった。
“もと首相の御曹司”
“明治の元勲の曾孫”
という、ただそれだけの理由でね。
もっと平たく言えば、私は自身の「人柄」ではなく、「家柄」を理由に政治家にさせられてしまったのだ。

私の父は確かに、戦前に首相をつとめていた。
もっとも、当時の陸軍の圧力ですぐに退陣に追い込まれてしまったがね…。
曾祖父は戊辰戦争の時に旧幕府軍を相手に縦横無尽の活躍をした、つまり多くの人を殺した、そんな理由で明治新政府に「元勲」並みの扱いをされて要職に就くことができた。 我が一族は、政治そのものとは殆ど関係のないことで、政治家として大出世してしまったのだ。

私は二十七歳の時、当時政党の幹事長だった父の「命令」で、初めて参院選に立候補し、ダントツ的トップで当選した。
なに、親の七光りと「家柄」がモノを言った、ただそれだけのことだ。
それは同時に、子どもの頃からの夢だった映画俳優への道を諦めなければならないことを意味していた。
こうして私は、曾祖父の代からの地盤を引き継がせるために、「家柄」が敷いたレールを、否応無しに走らされることになった。