『カチャッ』
テレビモニターに映る俺の姿が確認されたのと同時に、通用門のロックが解除される。
俺は落ち着きを取り戻すために深呼吸をして、いつものように事務所の2階にある広間に足を向かわせた。
タバコの煙で充満している階段を上がり、2階の広間の前にあるホールに入ると、高級感を漂わせるブランドものの黒装束に身を固めた、厳つい面々が既に集合していた。
100人は居るかと思われるこの連中は殆どが江藤会の人間だ。
「おお!木山ちゃん!」
「堅二!」
「堅二さん!」
階段を上がったのとほぼ同時に、俺は皆から一斉に囲まれた。
仲間達、弟分、それからアニキ達…
「もう身体は大丈夫なのか?」
「入院中はいい女ナンパ出来たか?」
そこには俺の精神状態とは裏腹に、優しい言葉をかけてくれる仲間たちがいた。
誰一人として、朝戸の話題を振ってこようとする奴はいない。
皆がその話題に触れないのは、朝戸と兄弟分だった俺の事を気遣っての事だ。
俺はそんな皆の些細な優しさに触れ、思わず涙が込み上げて来そうになる。
そして、
『皆を巻き込む訳にはいかない…』
俺の中でそんな思いが更に強くなる。
これは江藤会と中山組の問題ではないんだ。
俺とナオキと中山組の問題なんだ。