たった一言が言えなくて



ああ、だから顔を上げたく無かったんだ。



「何で、泣いてんだよ……」



生暖かい滴が頬を伝う。

佳斗の困惑した表情がゆらゆらと視界に揺れて上手く見れない。


私はパッと視線を逸らした。



「何でも、な…い……」

「何でもねぇわけないだろ…」

「何でもないってば!」

「じゃあ、何で泣いてんだよ!?」

「知らない!私だってわけわかんないんだよ!!」



本当はわかってる。

これは嫉妬。ただの幼なじみなのに笑っちゃうよね?


いや、笑うよ、笑え。



「なあ……泣くなよ。俺、お前に泣かれるの嫌なんだよ……お前には笑ってて欲しいんだよ」



ねぇ……佳斗、それってどう言う意味?







佳斗に掴まれた腕が緩む。
私はそれを見逃さなかった。ブンッと勢い良く相手の手を振り切って駆け出す。



佳斗の呼ぶ声がしたが振り返らない。振り返れなかった。

















逃げたのは他でもない──この私だった。