「407号室・・・。」

≪ドンドンドン!!≫

「開けて!ねぇっ・・・開けて!」

フロア中に聞こえるほどの声だったと思う。

≪ガチャっ・・・。≫

「お?どしたん?」

「ハァハァ・・・。」

「何かわす・・・!」

私はその人に抱きつき、胸のあたりに顔をうずめる。

鼓動が聴こえる。

一回・・・
二回・・・
三回・・・

そしてあと少しの距離を埋めるため、背伸びをする。

もう少し・・・。
もう少し・・・。

届いた。唇のところまで。

一秒・・・
二秒・・・

それぐらいだったと思う。
そしてゆっくり顔を引き、瞳のきれいなその人にありがとうと言った。びっくりするかと思ったが、これまで通りの顔をしていた。

「・・・。」

「ありがとう。」

「・・・。」

「・・・。」

「今度呼んだら二倍サービス頼むわ!」

冗談混じりのその人の言葉に私はこう言った。

「今度は違う形で会いたいです。」

私の返事にその人はにっこりほほ笑んだ。

名前も知らないその人とはもう会うことはないだろう。私はその後すぐに店に足を運び、この仕事を辞めることを店長に告げた。

でも、もし会えるのなら、本当に会いたい。


それから三年後‐
私は一つの曲を作った。

『優しい気持ち』という曲名で。