「風邪ひくで。」

二度頭を縦に振った。

声にならない言葉を発した。何て言ったのかわかったのだろうか。

「いいよ。」

「・・・だっ・・・て。」

「だってほら。十分前のお知らせクンがうるさいやん。それに、俺結構人のことわかるけんさ。」

「・・・。」

私は差し出された下着と服を着た後、何度も謝った。するとその人はこう言った。

「ごめんじゃなくてありがとう、だな。」

「・・・。」

また涙が出た。二度大きく頭を縦に振った。

その人は浴衣を羽織り、部屋を出、エレベーターの前まで私を送ってくれた。

「・・・。」 

「・・・。」

沈黙の中、エレベーターが二階、三階と上がってくる。そして四階で扉を開けた。

「気ぃつけて帰りよ。」

「うん。」

エレベーターの箱の中に立っている私に、その人は半身乗り出して私の髪をくしゃくしゃっとする。

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「うん・・・。」

何か言ったわけでもないが、その人の瞳が何か私に語りかけてきたので返事をした。
その人は安心したように口をにこっとし、乗り出していた身を引いた。

私は初めて客に手を振ってバイバイをした。しかも笑顔で。その人もそれに応えてくれた。エレベーターのドアがその人の像を徐々に削っていく。

「じゃあね。」

まだ手を振り続けた。

「・・・。」

そして完全に視界からその人が消え、私を地上へ運んでいく。

「・・・。」

エレベーターが開き、フロントをカツカツと抜け、店の車に向かう。アシの男が私の顔を見、忘れ物がないか尋ねてきた。

「・・・。」

ケータイ、財布、店の備品・・・。ちゃんとある。

「・・・あっ!!」

忘れていた。私は車を飛び出しあの部屋に向かった。