でも、そんな考えもその人には通じないようだ。

「えーっ!俺一緒に出たい。」

「・・・。」

「一緒にシャワーして、一人で出るってなんか寂しいやん。」

あまりそう思ったことはないが、普通の人はそう感じるのだろうか。普通のカップルは一緒にでるものなのだろうか。それとも単にその人が寂しがり屋なのか。

「・・・。」

「嫌・・・?」

その大きな瞳で見つめられたら、嫌って言えないよ。もう、あまり深く考えるのは止めよう。私はさっきよりもにっこりほほ笑んで返した。

「ふふっ。初めて言われた。」

「だって一緒に出たいんやもん。」

「もうちょっとシャワーするから待ってて。」

「うん!じゃあ、バスタオル持ってきてあげる。」

「うん、ありがとう。」

ほんとに変わった人だ。
どっちが仕事してるんだか。でも、こんな男の人が傍にいてくれたら私でも変われるのかな、なんて一瞬思ったりした。

「このピンクのバスタオル、いい匂いがする。」

「ん?」

「アタックの匂い。アタック使いよるん?」

「うん、よくわかったね。」

その人は私の自前のバスタオルを手に取り、くんくんとにおいをかいで、にっこりしている。幸せな人だ。
 
『幸せは結構身近なところにある』

そういう風によく聞くけど、何か今はわかる気がする。シャワーが気持ちいいとか、洗ったバスタオルがいい匂いがするとか、きっとそういうことなんだと思う。

これまでの私だったら、そんな幸せは見つけられなかっただろう。ずっと心を閉ざし、ずっと男を憎んで、ずっと人を信じず、ずっとその意思を貫こうとしていた私には。

「ほらバスタオル。」

「うん、ありがとう。」

私も一度顔に近づけ匂いをかぐ。アタックのいい匂いだ。私もにっこりほほ笑んで、体を拭く。そして一緒にシャワールームをでた。