彼とは気持ちが合わない時が多くなった………

情けないが、
一人で泣くような日もあった………

取りしまりが厳しくなり、
組織も運営がうまくいかなくなり弱体化していった………

帰りの車の中で彼は言った、


「また二人で立て直そうや!」………


オレは返事をしなかった……


彼にはずっと世話になり、
いまでも恩人だと思っている……


彼は酒に酔うと………


オレを弟だと言ってくれる………


オレだってホントの兄貴のように思ってる………


何を言ったらいいのか……


どう表現したらいいのか……


自分自身でもどうしたらいいのかわからない…………


ただ黙っていた………


この世界は辞めていく人間のほうが多い……


才能ない者、


覚悟なき者、追い出される者、


………精神が疲れ冷めてしまう者。








普通の会社のように退職届をだして辞める訳ではない……


たいていは誰にも言わずそっと去っていく……


オレは初めて人前で泣いた……


そんな俺を見ながら彼は言った、







「オレはこの世界で生きていくからな」、……………



別れの言葉なんてなかった……


車から降りる時にアイサツもできなかった………

いつもなら「オツカレサン!」と言って車を走らせる彼も……


ただ正面を見て……


しばらく車を止めていた。


オレは車の横で下を向いてただ立っていた………


そして彼はチラっとオレを見て………


二人が目をあわせた瞬間……



彼は車を走らせた………








オレは夜明け前に荷物をまとめて……


なるべく誰にも見られないように家を出て……


人目がつかない場所でタクシーを呼び……


なるべく遠くの駅で降りて……


この世界を辞めた……


気持ちの中は……


悲しくもなく……


喜びもなく……


これからの事も考えてない……



何もない……







カラッポだった………