『ねぇー、優斗っ。
メインシーンの打ち合わせやろうよ。』
まただ。
きっと、私にわかるように。
わざとやってるんでしょう?
また、優斗が遠くなる。
二人のシーンは見たくないけど、
優斗の姿は見たくて。
きっとバカな私はテレビをつけてしまうだろう。
それで、更に優斗を遠い存在に感じてしまう。
もう、目に見えてる。
『なんだよ、メインシーンって』
急に不機嫌になる優斗。
そこに深い意味はないんだろうけど。
それに嬉しくなてしまう私は、やっぱりバカ。
『決まってるじゃない。
キスシーンだよ!』
心臓が大きく音を立てる。
キス?
優斗・・・・キスしちゃうの?
『フリだろ、フリ!』
『え〜?
いいんじゃない?本当にしちゃって。
そのほうがリアルだよ。』
やだ。
聞きたくない。
そんな話が聞きたくて、電話してるわけじゃない。
何でだろう。
最近、ナイーブになってきてる。
視界がぼやけた。
震える声で、呟く。
「も、・・・切るね。」
『え!わり、時間か?』
『ほら、忙しいんだろうから。
切ってあげなよ。』
『おめぇが言うなよ。
んじゃあ、また明日!』
騒がしい向こう側に対して、こっちはぬるい風が吹くだけ。
「うん。」
『邪魔してごめんね!
ほんとバカだからこいつ。』
『はぁ?
意味わかんねぇ。』
やがて辺りは暗くなり。
ポツポツと雨が降り始めた。
「じゃあ、バイバイ。」
慌てて中に駆け込んだ私は、電話を切ろうと耳を離す。
グイッ
「え?」
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