『優斗っ。
ちょっと向こう行ってみない?』
その甘ったるい声は、ちょっと聞いただけでもわかる。
春日結衣。
優斗、って呼んでるんだね。
『あ、結衣。
わり、今はパス。』
血の気が引くのがわかった。
結衣・・・・?
呼び捨てなの?
お互い、名前で呼んでるの?
私だけじゃなかった。
名前で呼べるのも呼んでもらえるのも、私だけじゃなかった。
そうだよね。
深い意味なんかないもんね。
名前で呼び合ってるってことに、どこか安心してしまってたのかもしれない。
バカじゃん。
『わり、途中で。
達哉によろしく頼むわ。
あ、それとさ・・・』
「早く行ってあげたら?」
『・・・は?』
どんどん心が曇ってく。
それがバレないように、無理矢理明るい声にして。
見えないのに笑顔にして。
「結衣ちゃん。
待ってるんでしょ?
早く行ってあげなよ。」
『は?
今断っただろ。
聞こえてねーの?』
だって。
だって。
声が、奮えちゃうんだもん。
パシッ
「え?」
いきなり携帯を奪われた。
やばっ、先生!?
慌てて涙を拭い、顔を上げる。
「もしもし。
萩原ですが。
俺に何か用?」
あ・・・。
萩原君。
「あぁ、うん。
何、それだけ?
照れるなって。
俺はいいと思って引き受けたんだから。」
何で優斗だってわかったんだろう。
「近くに誰かいるの。」
萩原君の声でまた顔を上げた。
.

