健くん……。
久しぶりに見た健くんは、卒業式の日よりもっとカッコ良くなって
あたしの知らない健くんになった。
「健く……違う。」
“健くん”と言いかけて思い出した。
あたしはもう、“健くん”と呼ぶことはないんだな……。
そう思うと、悲しくて涙が溢れそうになる。
でも今、泣くわけにはいかないから必死でこらえた。
「…健先輩?」
勇気を出して呼んでみる。
あたしの小さな声に、健くんは気付くわけもなく
ただ誰かを真剣に見つめていた。
「健先輩?」
健くんの視線を辿ると、その先には
………汐莉ちゃんがいた。
ねえ……
汐莉ちゃんばっかり見ないでよ…?
あたし、ここにいるよ?
絢佳がいるよ?
あたしにも気付いてよ……
――ズキン…
汐莉ちゃんに夢中な健くんを見ていると
少しだけ、胸が痛んだ。
だけど……
「……健先輩!!」
勇気を出して健くんの名前を呼んだ。
健くんがあたしを見てくれないのなら
あたしが健くんの視界を埋め尽くすくらい…いいよね?
お願い、神様………
少しでいいからあたしに健くんと話せる時間をください……。
突然、視界を埋め尽くしたあたしを見つめる健くんは
とても寂しそうな目だった。
あたしは、なぜか悪いことをしてしまったような気がして引き下がろうとする。
「……健先輩?」
――グイッ
「………きゃッ」
その瞬間、あたしの155㎝の小さな体は健くんの腕の中に吸い込まれた。
ねえ、健くん?
アタシハアナタノナンデスカ………?
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