「あ、健か。ほら、行ってきな?」
男の先輩は笑顔であたしに言って歩き出した。
あたしがその背中を見送っていると、
「あ、そうだ!」
と言って方向転換をしてもう一度あたしのところに戻ってきた。
「どうしたんですか?」
あたしが訊ねてみると、男の先輩はキレイな整った顔をゆるませ、
頬にエクボを作って言った。
「絢佳ちゃん、携帯かして?」
へ?
そんな突然に………。
あっという間にあたしの手から携帯が奪われ、
何やら先輩にいじられている。
ピッポッという音が周りの騒がしさにかき消されて今日はやけに小さく聞こえた。
………カッコイイ。
携帯のディスプレイを唸りながら見つめる表情がとてもキレイで
素直に“カッコイイな”と思えたんだ。
「…絢佳ちゃん?」
「ほ、ほぇ?」
勢いあまって、あたしの口からは変な声が飛び出た。
「何、その声…」
先輩は苦笑しながらあたしの手に携帯を戻すと
“メールして”とだけ言い残して行ってしまった。
何だったんでしょうか…?
それにしても、カッコイイ人だったなあ……
モテるんだろうな……
あたしはただ先輩の後ろ姿を見送りながら思った。
携帯のディスプレイを見ると、アドレス帳が表示されていて
“井上 聖夜” (イノウエ セイヤ)
と書いてあった。
聖夜………?
クリスマスイヴの事だよね?
素敵な名前………
あたしは携帯を仕舞うと、健くんの傍に行った。
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