◇◆Side.汐莉◆◇




気付けば病院にいた。

どうやって帰ってきたのか、
何があったのかもわからない。





一つだけ
覚えているのは…

ただ、あたしの傍でずっと手を繋いでくれていた手があったことだけ。




その手はとても温かくて、
あたしの心に刺さった無数のトゲを
ゆっくりと溶かしていくようだった。





静かに瞳を開けると、いつもの病室。



何度も見上げた白い天井

何度も嗅いだ消毒液の匂い



いつもの病室そのままだった。







「汐莉?」


小さく聞こえた、あたしを呼ぶ声。




その声のする方を見ると、
可愛い顔で眠る健がいた。

あたしの手をしっかとばかり握って
スウスウ眠っていた。







「なんだ、寝言…」


一言呟いて、棚に置かれた時計を見る。

長針と短針が共に“3”を指していた。





ふと、窓の外に広がる空を見上げる。


窓の外は薄暗くて、いくつもの星が散りばめられていて
月が小さく見えた。



まるで、小さな宇宙







夜の世界は、昼間と違って暗くて静かで…

だけど、昼間の空じゃ抱えきれないものを
大きな腕で抱えているような雄大さがある。




あたしはそんな夜の空が好き。




夜の空にそっと話し掛ける







ねぇ……?

あなたはいつからそこにいるの?



あたしが生まれる、ずっとずっと…
ずーっと前から?





そんなに長く在るなら、未来もわかるよね?


………あたしの未来。






教えてよ、あたしの未来。








どれだけ問い掛けても
夜の空は答えてはくれない。








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