インターハイを目前にしたある日―…
「汐莉、今日部活休みだろ?
帰ろうぜ」
試合が近いのに珍しく部活がお休みで健が誘ってくる。
とりあえず、うん、とだけ返事をした。
「……あれ、今日自転車じゃないの?」
いつもの駐輪場にあるはずの自転車が見当たらなかった。
心配になって健に訊ねてみる。
「あ~…。自転車パクられたから」
衝撃の一言。
……自転車盗られたの?
「だから、仕方ねーの。
帰ろ?」
健は寂しげに笑ってあたしの手を引いて歩き出した。
何か隠してるよね…?
あたしじゃ、聞いちゃいけないのかな?
変な想像が頭の中を駆け巡る。
ユニフォームを貰ったあの日から、健の様子がおかしい。
「ねぇ…健?話してよ…」
あたしがそう言うと、健は悲しげな目であたしを見る。
「心配すんな?大丈夫だから」
……嘘つき。
悲しそうな目をして笑う時は健が何かを隠している証拠。
「あたし…幼なじみなんだからわかるよ?」
「汐莉、ありがとな?」
健の優しい手が頭に触れた。
その仕草が切なくて、寂しくなった。
言ってみてよ……
力になりたいんだよ?
ダメなのかな?
自然と涙が溢れ出す。
ジワジワ込み上げる涙は後をたたない。
我慢しても我慢しても、涙は溢れる。
あたし、バカだな……
一番泣きたいの健なはずなのに…
あたしが泣いてる。
泣いちゃダメ。
心では分かってるはずなのに、体が言うことをきかない。
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