「ねーえ、健」

「ねえってばーあ」

「ちょっと待ってよー」



何度も僕の名前を呼ぶ汐莉。
気付いてない訳がない。
いや、むしろ気付きすぎてるくらい。

だけど悔しいから。



毎日毎日、汐莉とずーっと一緒にバンド?

ふざけんな。

悔しいにも程があんだろ。





って、言いたいところだけど胸の奥底にしまって。

開いちゃいけない。
この気持ちは封印するんだ。

もうあと一週間も我慢すれば、二人でいられるから。



「ねぇ、たけ…「今日、練習行かなくていいのか?」

ほら、そうやってまた墓穴掘ってさ。
自分で自分の首締めてるだけだ。


「もう十分だから、発表の前日に合わせるだけだよ?」

「そうか…」

「ねぇ、健?」



僕を呼ぶ汐莉の声が突然遠くなる。
僕も足を止めて振り返った。

汐莉は僕の数歩後ろで立ち止まり、俯いていた。




「しお…「……変だよ」

「は?」

「健…なんか変だよ…!」

「どこが…」

「あたし、何かした…?」




ごめん、汐莉。
まだ大人になんかなりきれない……。