目眩がする。
吐き気がする。
胸が苦しい。
目の前の現実が急に夢の中のように思えてきて、立っていることもままならなくなった。
わずかに2、3歩後退りし、背中が壁に触れた。
―聞いちゃいけなかったんだ。
―ここにいるべきじゃなかったんだ。
手が、体が、足が、心が。
いてもたってもいられなくなったようで、あたしはその場にへなへなと座り込んだ。
―もう……
何も見えない。
何も聞こえない。
何も分からない。
どうして?
あたし…まだやりたいことたくさんあるんだよ?
高校だって卒業してないし、大学だって行きたい。
健に返事だってしてないし、結婚もしてない。
まだ……他に。
たくさんしたいことあるのに。
あたしには許されないことなの?
叶わないことなの?
そんなの…そんなの。
「…嫌だよ……っ」
冷たい雫が頬を伝って、固く握りしめた拳に音をたてて零れた。
いつかのあの日のように、あたしは静かに涙を流した。
脳裏に浮かぶのは笑顔の健で。
その、汚れのない澄んだ真っ直ぐな瞳は少しだけ……あたしの心を落ち着かせてくれた。
いつでも健の瞳は真っ直ぐあたしを見つめていた。
驚くくらいにキレイすぎて、その度にあたしをドキドキさせた。
健に会いたいよ……。
今はその真っ直ぐな瞳が欲しいよ。
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