健の香りに包まれて、あたしは目をつぶった。
そして…ありがと、って小さく小さく呟いた。
健の腕はあったかくて
力強くて……
なにより、優しかった。
ずっと“ここ”にいたい
なんて思ったり。
「ほら、脩大と可菜ちゃんのとこ行くぞ」
あたしを腕の中から解放してから、次はあたしの手を掴んで歩き出した。
「…健っ、ホームルームは?!」
問い掛けに少しの間を置いて、
「サボろうぜ」
ニヤッと笑って言った。
「…ったく、仕方ないんだから」
あたし達は、脩大くんと可菜までもを道連れにして学校から抜け出した。
日はちょうど真上にあって
流れる雲は優しく見守ってくれて
熱を発するアスファルトの道路をあたし達は、全力で駆け抜けた。
高校最後の夏休み。
教師たちの視線を痛いほど背中に感じながら、全力で走った。
聞こえるのは、
4人の荒い息遣いと
うるさく響くセミの鳴き声と
あたしの確かな鼓動。
ドクン…ドクン
って規則的なリズムを刻む。
その度に
ああ、あたしは生きてるんだ
って感じる。
なによりも、それが嬉しかった。
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