「なぁなぁ、汐莉っ?」

「んー?」




あの日以来、健はいつもあたしの傍にいる。
気を遣ってくれているのか、ただなんとなくなのかはわからないけれど
あたしは嬉しかった。


あの一件の後、すぐに全県大会があって
またも朝日ヶ丘高校は勝ち上がり、みごと全国大会へとコマを進めた。


将生くんの肉離れもだんだん治りだしてきて、今では走れるほどになった。








ミーンミーンミーン……


この間よりも、昨日よりも。より一層うるさくなったセミ。



夏休みがすぐそこにあるということを教えてくれているようで、ちょっとウキウキした。






「全国大会ってさ?どんなんだろうな?」

「うーん……。強豪チームがたくさん来て、あっつーい試合が見れるところ。じゃないかな?」

「おおー!なんかカッコ良いな」

「……そして」

「そして?」




そして。

あたしの一言に興味津々の健の目を見つめて




「……健たちが一番輝く世界」





あたしが想像する全国大会。
デフォルメしすぎな気がするけれど、夢だったから。


健が全国大会のコートでプレイするのが。
それを見るあたしはマネージャーであることが。






「そんな夢見ちゃって、勝てなかったらどうすんだよー」

「その時は諦めるしかないでしょ」




アハハと笑う健の目はすごく燃えていた。



「とりあえず、一勝はしたいな?」


健はあたしの隣に腰掛けて笑う。
あたしも小さく微笑んで健の肩に頭を乗せた。


「そうだね」

「…なにがなんでも勝ちてぇ」

「ちゃんと聞き届けたよ。だから勝って?」

「当たり前だっつの」

「痛ッ」





健の指があたしのおでこで跳ねた。

デコピンとかありえなーいって言ってみたかったけど、やめたよ。



気のせいか全然痛くなかったのは、健の優しさだね。