「…たーけーる?おーい」
将生のことを考えていたら、目の前に将生の顔が出現。
いつもなら、かなり驚いている僕が今回は大して驚きもせず愛想のない返事を返した。
「俺、今日電車で帰るから……じゃあ…な?」
「あっ…そっか。じゃあな」
そりゃそうだ。
何しろ足ケガしてんだ、自転車で帰れるはずがない。
おう、と一言残して将生は歩き出す。
その背中がやけにちっちゃく見えて、僕は叫んだ。
「帰り道、ケガすんじゃねーぞ!」
すると、くるりと振り返ると嫌らしく笑って
「バーカ。俺がケガなんぞするわけないっつーの!」
「そんなの知ってるよっ!」
……バカ野郎。
もうすでにケガしてんだろ。重大なケガ。
なんで将生は嘘ついた……?
僕はそんなに頼りないのか?
安心できないのか?
僕は将生を信じてるよ。
せめて……なんでも言ってほしかった。
一人じゃ我慢できないほど辛いことも、
二人なら乗り越えられることだってあるはず。
だから、言ってほしい。
将生の背中を小さくなるまで見届けると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると広瀬先生が立っていた。
「……あ」
「健、ちょっと時間いいか?」
「……はい」
振り返って見た先生の笑顔も、今はもう消えていて。
代わりにすごく真剣な眼差しが僕を捕らえた。
だいたい言われることは予想がついていた。
……だけど。
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