3月12日。



「あ、紗也ちゃん!おかえり〜」



家の前で、サッカーボールを持っているたーくんと遭遇。



『ただいま。サッカーしてるの?』

「うん!あっくんと」



たーくんの指差す方へと視線を向けると……



「おかえり」

『………ただいま』



ジャージ姿の彰がいた。



『早いんだね?』

「後期受験の願書提出の時期だから」

『あ、そっか』



私立で、しかも推薦入学の彰は、もう卒業までまっしぐらなんだ。



そんな他愛ない会話をしているとき。



『………。』



彰の向こう側……あのフェンスのところに、また彼女はいた。


………あたしは負けない。



「あっくん、ゲームしよ!」

「ゲーム?」

「お家!」



たーくんが彰の袖を掴んで、自分の家に入ろうとしている。



「紗也ちゃんもおいでよー」



あたし、あたしは……



『…うん、じゃあ着替えてくるから彰とやってて?』

「うん!」



元気な返事を残して、彰の袖を引っ張って家に入っていった。


………それと同時に、踵を返す溝口さん。



『待って…!』



あたしは家に帰って着替えることなく、溝口さんを追いかけて走った。