力強く覇気が有り、明確な意思を持つ彼女の怒号。

有無を言わさぬ勢いのある声に、シュリまでが目を見張る。

感情を削ぎ落とした顔に、咄嗟に表れては消えた、シュリ自身の無くした感情。

明らかに自分を庇うイシスの思いに、シュリは胸の内で戸惑っていた。


『こういう馬鹿は相手にしない事に限るが、まさか庇われるとは思わなかったよ……』


エステルまでもが意外な展開に目をみはり、妹姫の動向を見守る。

イシスは辺りを見回すと、ハッキリとした意思を持ってその場に臨んだ。


「彼を見つけ出したのは、わたくしです。わたくしは、この出会いを偶然とは思いません。会うべくして、出会ったのだと思います。ですからわたくしは、彼の言葉を信じます。わたくしを救って下さると、信じております。ですから皆さんが、彼を侮辱することは、ひいてはわたくしを侮辱することだと、考えて下さい」


その声に、否を唱える者はこの場にいない。

それはイシスが皆に愛されている証拠なのか。

それとも統治者の威厳なのか。


『だとすれば、彼女の方が俺より余程、王者の資質があるよな……けどまぁ、それも……』


どうでも良い事か。

と、考えてシュリは辺りを見回した。

どちらにしても、伯爵の腕前がいかほどか、確認しておく必要がある。

シュリは、数歩前に進み出るとイシスの後ろに回り込み、彼女の肩にポンと手をかけた。


「イシス……」


軟らかな、儀礼的な微笑みすらないシュリの顔。

冷たく映る美貌はどこか人形の様に見えて、綺麗ではあるが得体が知れない。


「シュリさま……」


『無理はなさらないで……』と、言いかけてイシスは口をつぐんだ。

何を言われても気に止めないシュリの事、彼女がどうこう言っても伯爵と手合わせをすることを変更するはずはない。

そう考えた聡明な彼女は、小さく溜め息を付くと、シュリに場所を譲った。


「お怪我だけはなさらないで下さいね」


と、シュリはすれ違いざまに、イシスの心配そうな声を聞いたのだった。