「気を失ってはいるが、すぐに気付くだろう」


シュリはエステルにそう言って、彼の傍らに立つた。

エステルは、可愛い妹の様子を見て、ホッと胸を撫でおろす。

イシスに、着衣の乱れは無い。

頬が少し赤身を帯びて、唇が腫れぼったくはあるが、それ以外は何も無い。

エステルは、魔術師がイシスに何をしたのか、それが予測出来ないのが、心配だったのだ。

何もなかった。

とは言い難いが、純潔は守られたと見て良いだろう。

エステルは、可愛い妹を見つめたまま、シュリに言った。


「契約がどんなものかは知らないが、これで妹は助かるのだな」

「これで姫君を、全力で守る事が出来るのは確かだ」

「分かった。なら妹の事、任せて良いのだな」

「ああ。問題無い」


エステルは、シュリに向き直ると意思の強い光を宿したその瞳で、魔術師を見た。


「お前がどう妹を助けるのか、私には解らないが、その事に関しては信用しよう。イシスを頼む。ところで、出発は何時なんだ? 明朝か?」

「あぁ。その頃には発つつもりだ」

「ならば、それまでは、この城に滞在するといい。今夜は、妹の誕生日の祝宴がある。君も、今宵は楽しむと良い……」


そう言ってエステルは、イシスを抱えあげると、部屋を出て行こうとして、ふとシュリを振り返った。


「案内の者をよこそう。宿にも使いをやるから、心配いらない。それまでここで待つといい」


そう言ってエステルは、シュリとロイを残して部屋を後にした。