『シュリ様……私、私は……この様な形でキスなんて……あぁ……い……や……。だ……め……もう何も……考えられな……い…………』


シュリが、イシスを開放した時、彼女は気を失っていた。


『っつと、やり過ぎたか……?』


シュリは、イシスを横抱きに、抱き上げると、近くのソファーに寝かせた。

そして、姫の傍らに膝ま付き、まだ幼さの残る、優し気で愛らしい顔を覗き込む。

このあどけない姫が、後数年もすれば、絶世の美女と、呼ばれる女性に成長する。

それが、待ち遠しく思う感情がシュリの中に沸き起こる。


『めずらしな。感情がわいた? やはり彼女が、セレナの生まれ変わりだからか? 俺も少しは、人間らしくなるだろうか?』


イシスの顔を見ながら、クツクツと笑うシュリ。

彼は自嘲していた。


『けどな、セレナにうりふたつのこの少女。彼女は、セレナにはならないんだよ。全くの別人。それ位、解れよ……俺』


セレナが亡くなって、350年以上が経とうとしている。

シュリの脳裏に、セレナの最後の言葉が甦った。


――もう一度貴方と――


シュリは頭を軽く振って立ち上がると、扉の前迄行き、ゆっくりと開け放った。


そこには、扉に耳を付けて聞き耳を立てていた、ロイとエステルがいた。

シュリは、1人と1匹を認めると、呆れ顔で大きく溜め息を付いた。


「ロイ……お前……。エステル様まで……」


呆れてものが言えないシュリと、ばつが悪そうに所在無げに立つ一人と一匹。

シュリは、彼らを招き入れると、イシスの元へと案内した。