「シュリ〜、そんな人形みたいな話し方していると、イシスちゃんに嫌われるぞぉ」

「あんたもいい加減、その話し方、慎んだらどうだ? ただの馬鹿にしか見えん」


漣がとぼけた声を出して咎めると、シュリが間髪入れずに応戦する。

本当に仲が良いのか、悪いのか。

端から見ても分かりにくい親子。

見目好い顔を、あからさまに侮蔑の形に歪めて、シュリがもう一度、言った。


「早く帰れ」


シュリの態度に漣は、肩を竦めて息を付く。


「わかりました。分かったから、そんな顔すんなって。ほんっと、からかいがいの無い奴」


少々ふて腐れ気味の漣の声音に、まだ言うかと直一層不快感を示し、言葉を返そうとしたシュリを遮って、先にイシスが漣に問うた。


「もう帰られるのですか?」

「うん? そうだねぇ。意地悪も大概にしないとシュリが爆発するから……帰るよ」


断言する漣に、イシスが寂しそうに眉根を寄せ、抱きしめるシュリの腕から、すり抜けた。


「又、いつでもいらして下さい。歓迎致します」

「しばらく来るなよ」


イシスの言葉にシュリの言葉が重なって、


「もう……駄目ですよ。シュリさま。そんな事をおっしゃられては……」


イシスがたしなめる。

そのやり取りは、すでに亭主を尻に敷く女房さながらで。

思わず、漣の顔に柔らかな笑みが浮かんだ。

父の顔もわずかな間で、彼は、急に険しい表情を浮かべて、シュリを見た。



「シュリ。私はもう帰るけど、全て独りでしょい込むなよ。お前の問題は私の問題でもあるのだからね」


声音は至って優しいが、有無を言わせない口調に、シュリが眉を寄せる。


「何の事か解らんな」


とぼけているのか否か。

真意の見えないシュリの表情に、漣が溜め息をひとつついて、確信に迫る。


「ナイアルラトホテップ。奴をわざと逃がしただろう。奴は必ず主に報告するよ。いや、もう報告済みで、誰かこちらに、向かっているかも知れない」

「ふん……誰か、ねぇ。」

「シュリ……奴の主は誰だっけ……? とぼけるなよ」


何時にもまして強い口調の漣に、シュリもとぼけるのを止めた。