「本当にどうした?何か変だぞ」
今度は本当に心配そうにしながら私の顔を覗く。
少し顔が近くて…また心臓が跳ね上がる。
「いや…本当に何でもないから!!それよりも早く行こう、信号変わっちゃうよ」
私は動揺を隠すために、一気に巻くし立てる。
それでも彼は納得いかない様な表情を浮かべていた。
けれど、これ以上聞いても無駄だと判断したらしく、何も聞いてこない。
そんな彼の様子に、内心ほっとしながら歩く通学路。
さっき小手川の顔を見て胸の鼓動が早くなったのは、きっと昨日の出来事のせいなんだ。
私は自分に言い聞かす様に…何度も頭の中で反芻しながら、学校まで彼と歩いて行った。

学校に着くと、何時もの喧騒が私を包み込む。
まだ整理されていない頭の中に、雑音の様に入ってきては掻き乱す。
何時もと同じはずの日常。
けれど何故か…私だけ置いて行かれた様な錯覚に襲われた。
みんなが私を――
と言うわけではなくて、ただ漠然と全てに置いて行かれる様な気がしただけ。
例えるならそう…

“世界が私を置いて行く”

そんな感じがして、胸が軋んだ。

「おい!」
そんな切羽詰まった様な声と同時に、私の肩に力が加えられ後ろへと引っ張られた。
見ると小手川が、物凄く心配そうな顔で私を見つめている。
「あ…何?」
私がそう言うと、小手川はその表情を崩さないまま答えた。
「お前が教室のドアに突っ込もうとしてたから止めたんだよ。本当にどうしたんだよ、やっぱり変だぞ」
そういう小手川の顔が、近付いてくる。