序章/崩れる均衡

賑やかな街中を歩く。
回りの人達はとても楽しそうに笑っている。
そんな風景を眺めながら、クリアイヤーホンから流れる音楽を聞いていた。
暖かくなっていく陽気に合わせた春の歌を、聞きながら目指す学校は、退屈だけど楽しい日常の象徴だった。

信号待ちの交差点。
沢山の人達が集まっている。
退屈そうな学生とか、仕切りに時計を見る人。
友達とお喋りしながら待っている人。
とにかく沢山の人達がいて、その中で私は静かに瞳を閉じてみる。
イヤーホンから流れる音楽から、風景を瞼に映し出す。
この都会の中では見る事の出来ない風景が広がる。
春の暖かな風が…頬を撫でた様な気がした。
ゆるりと流れる時に、私が身を委ね様としたその時。
頭上に衝撃が走り、瞳を開ける。

「こんなとこで寝るな。通行の邪魔だろう」
聞き慣れた声に怒りを覚えながら、私は隣に居る奴を睨んだ。
「寝てるわけないでしょ!!ちょっと歌に聞き入ってただけなのに、あんなに強く叩く事ないじゃない!!」
イヤーホンを素早く外してから、叩かれた部分を擦り言う。
隣に居るこの痛みの元凶は、含み笑いをしながら此方を見るだけで謝ろうともしない。
と言うか…寧ろ面白がっている節がある。
「そうか。目を瞑って微動だにしないから、てっきり立ったまま寝てんのかと思った。悪かったよ」
明らかに馬鹿にした口調で言ってきた奴に、ムカついた私は一発脇腹に渾身の突きを入れてやった。