千弥子が短期女子大学に進学したということを、晶悟はもちろん知っていた。
晶悟は無理矢理担任から聞き出したのだ。
 

晶悟は高校を卒業した後、父親の友人に紹介された土木関係の事務所で勤務することになり、月曜から土曜まで働き詰めだった。
あまり大きくはない事務所だが、温和な社員に囲まれて、晶悟はそれなりに楽しく働いていた。
 

 
「晶悟。そろそろ他の奴らが帰ってくるから早めに昼食取っておけよ」
 

「はい」
 

「住吉君、一緒に食べない?」
 

 
最近よくこうして晶悟に話し掛けてくるのが、事務所に一人だけいる女性社員の橘麗奈だった。
 

晶悟よりも一つ年が上で派手でない、地味な身形をしている。
 

女遊びが激しくて、洒落た格好をした高校の時の俺を橘さんは知らない。
本当の「俺」がどれなのか、それは今の俺にも解らない。