「千弥子っ、千弥子、ごめんなっ……」
 

 
放課後の教室に入る西日と、無造作に置かれた沢山の机が二人を隠している。
 

 
「千弥子っ、千弥子、」
 

 
好きなのに、離さなければならないのか?
 

好きなのに、離れなければならないの?
 

そんな事をしたからといって、お互いの為にはならない。それでも二人にはそれしかなかった。
 

 
「千弥子」
 

「っ……」
 

「こっち向いて、」
 

 
千弥子の涙で濡れた頬を、晶悟はゆっくりと両手で包みこむ。
 

ああ、小さいな。
 

 
「ごめん、千弥子。最後に一回だけ……キスしてもいい?」
 

「晶、悟」
 

 
言い終わると同時に晶悟は千弥子に優しく何度も口付けた。
 

一度では満足する事ができない。
晶悟は千弥子から離れる覚悟をしようとした。
 

ああ、くそ。苦い。
煙草をやめておけば良かった…晶悟はぼんやりと思った。
 

そうすれば、もう少し千弥子の唇を近くに感じる事ができたのかもしれない。
 

泣いているせいで、息苦しそうにする千弥子が愛しい。
久しぶりの千弥子とのキスがこんなにも愛しい。
 

でもそれは、二人が続く事のない、最後のキスだった。
 

 
2007.03.19
2007.05.05